『BIRTH』について
知らない町の話を聞くのが好きな子供だった。
どこか遠くに行きたかったわけではなく、ただ風景を想像するだけでよかったのだろう。
それは誰のものでもなく、同時に誰もが持っている物語のような風景。
いつの頃からか僕のささやかな世界地図は、頼りないミツバチのピンで少しずつ埋まっていくようになる。
顔のない海。透明な音楽を包む霧。神様を迎えた池。深い森を抜けてゆく小川。ロックンロールを運ぶ黒い運河。 年代順に並べられた全ての場所は水で繋がれ、最期に僕は哀しく優しい”声”に遭遇する。
無が有になる時の少し熱を帯びた感触は僕の指先や感受性をつらぬき、
永遠と一瞬のなか僕を曇りなき”まなこ”にしてくれる。
そこに写し出されるのは遥か自分の手を離れた神々しくも親密な風景だ。
僕が辿ってきた絶え間ない光と影の交換が、すべての水を集める大きな河のような一つの流れになり、 何か優しさのような物に吸い込まれてゆく事を、僕はこれからも見届けてゆく気がする。
澁谷征司
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