上田義彦『いつも世界は遠く、』

上田義彦『いつも世界は遠く、』


Book Design:葛西薫

発行:赤々舎

Size:H188mm × W210mm
Page:768 pages
Binding:Hardcover

Published in July 2025
ISBN:978-4-86541-198-0

¥ 7,000+tax

About Book


本書は、上田義彦の代表作から未発表の初期作品、最新作まで、自ら現像とプリントを手がけた約580点を収録し、768ページにわたりその40年の軌跡を現すものです。 

森や家族、河、建物、標本、紙、林檎の木、ポートレート。アートや広告といった枠組にとらわれることなく、上田の一貫して真摯で鋭い眼差しは、世界に存在するさまざまなモチーフを最高の瞬間として捉え、観るものを魅了してきました。
自身を取り巻く世界の機微を敏感に察知し、対象への想いを一瞬のシャッターに込める── 「From the Hip」(英題)が象徴する、直感に裏打ちされ、偶然と必然が交差する瞬間に写し撮られた写真は、遥かな時の流れの中の切り取られた一瞬として、見る者の記憶や感情と響きあってきました。

本書の構成は、通常のレトロスペクティブの趣と異なり、一度シリーズとして発表された代表作品を撮影年順に解きほぐし、さらに上田自身の手で最新作から時系列を逆にたどるかたちで編まれました。
それは上田の写真がいつも新鮮に立ち現れ、各シリーズをもう一度遥かな時間へと開いていくことを体現するものです。写真を全方位に開いていくありようのなかで、「いつも世界は遠く、」という響きは、上田の写真の魅力のひとつでもあり、写真に本質的に伴う「距離」を浮かび上がらせます。

約20年間にわたり撮影された、サントリー烏龍茶の広告写真と中国の記録「いつでも夢を」には、上田が風景と向き合うたびに感じたという「遠さ」「遥か感」が漂います。カメラという媒体が持つ特性により、懐かしさと普遍性が加わった唯一無二の写真であり、長年の時間をかけて洗練された、被写体との理想的な距離感と、全体に行き渡る空気感が美しく融合しています。
ポートレート写真もまた、上田の重要な領域です。広告写真としても多く目にする、美しく構成された背景の中に人物が慎重に配された作品から、フレームに収まりきらない接写まで、親密さと緊張感が交錯する「近くて遠い」距離感が現れています。母・源を意味する「Māter」、被写体の輪郭を溶かすように焦点がぼかされた「M.Ganges」「M.river」、太古の森を歩き、生命の大元と対峙するように写された「Quinault」「Materia」などの作品は、はるか彼方の時間に眠るものを表出しようとする試みでした。
家族の写真から13年間にわたる記録を厳選し、妻の日記の文章が添えられた「At Home」、そして、最初期作品である学生時代の卒業制作── いずれのシリーズにおいても、上田の作品に刻まれたこれらの光の痕跡は、物理的、心理的・時間的「距離」を越えてやって来たものであり、節度や抑制とともに、そこに憧憬、希求を静かに呼び起こします。また、旅の途上で上田が綴った未公開の日記やメモが初収録されていることも、本書の大きな魅力です。光や影、見ることの歓びについて書かれた言葉の数々は、写真の秘密へと触れようとする思索の断片として、もうひとつの軌跡を形づくっています。

上田は、自作について語るとき「奇跡」という言葉をよく使います。それは、写真という不可思議な営みが、自身の意図や行為だけで完結するものではなく、自分の外側にある要素──おそらく写真そのものが持つ偶然性や一回性、そして「距離」に大きく左右されることを知っているからかもしれません。

『いつも世界は遠く、』は、流れる時間を心から愛し慈しみ、今もなお、その遠さの向こうに世界を愛おしく見つめ続ける、上田義彦の眼差しの「旅」と言えるでしょう。
四十年の写真の軌跡は、私たちの時間と静かに響き合い、世界との出会いをあたらしくひらいてゆきます。



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“写真本来の能力は、もともと全方位に開かれているのだと思う。しかし、それを使う人、撮る人の考え方や目的や意図の力が強く働けば働くほど、その能力は限られた方向にしか開かれないのだと思う。だから僕は、写真の前でもっともっと自由で野放図に、己の眼を開いて世界を受け入れていければと願っている。”

(p.5  手帳より)

“旅の記憶として鮮明に立ち上がってくるのは、不思議なことだが、写真に撮れなかったことかもしれない。写真に残せなかったこと、撮ることができなかったことを、自動的に、記憶として網膜に焼きつけ頭に残しているのだろう。旅のほとんどは、遙か彼方にぼんやりとして霞み、しだいに消失してゆく。どれほど美しい景色だったのか、どれほど過酷だったのか、自分の記憶を人に充分に伝える事はむずかしい。しかし写真は、それを見れば、いつでも鮮明にその時間が蘇る。だから、それを可能にしてくれる不思議な装置、カメラとともに旅をする。”

(p.244 より )

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Special gift for the first customers 

小社HP先着ご購入者さまに、直筆サイン入り ポストカード(サイズ:H208mm × W148mm)を、特典としてお付けしてお届け致します。無くなり次第終了とさせて頂きます。(※赤々舎もう一冊、りんご通信など、その他の特典は付きません)

One signed postcard will be given away as a Special gifts for the first customers.
The offer will end while supplies last.


Related Exhibitions

上田義彦 写真展「いつも世界は遠く、」

会期:2025年7月19日(土)~2025年11月3日(月・祝)

時間:9:30 〜 17:00

会場:神奈川県立近代美術館 葉山

(神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1) 

月曜休館(7月21日、8月11日、9月15日、10月13日、11月3日を除く) 


同時開催:上田義彦「FLOWERS」
会期:2025年8月23日(土)~2025年9月6日(土)
小山登美夫ギャラリー六本木

同時開催:上田義彦「Beside Time 光に宿る記憶」
会期:2025年8月21日(木)~2025年9月15日(月祝)
OFS.TOKYO


Artist Information

上田義彦


1957年生まれ、兵庫県出身。写真家、多摩美術大学教授。福田匡伸・有田泰而に師事。1982年に写真家として独立。以来、透徹した自身の美学のもと、さまざまな被写体に向き合う。ポートレート、静物、風景、 建築、パフォーマンスなど、カテゴリーを超越した作品は国内外で高い評価を得る。またエディトリアル ワークをきっかけに、広告写真やコマーシャルフィルムなどを数多く手がけ、東京ADC 賞最高賞、ニューヨークADC賞、カンヌグラフィック銀賞はじめ、国内外の様々な賞を受賞。
2011年に自身のスペースGallery 916を主宰。2014年日本写真協会作家賞を受賞。また、初めて監督、脚本、撮影を務め2021年に公開された、映画『椿の庭』は大きな反響を呼び、映画監督としての仕事も注目されている。作家活動は独立当初から継続し、2023年までに40冊の写真集を刊行。

主な写真集に『QUINAULT』(青幻舎、1993年)、『AMAGATSU』(光琳社出版、1995年)、『at Home』(リトル・モア、2006年)、『Materia』(求龍堂、2012年)、『A Life with Camera』(羽鳥書店、2015年)、『FOREST 印象と記憶 1989-2017』(青幻舎、2018年)、『椿の庭』(赤々舎、2020年)、『Māter』(赤々舎、2022年)、『いつでも夢を』(赤々舎、2023年)などがある。
主な個展に「上田義彦『Photographs』」(東京都写真美術館、2003年)、「Chamber of Curiosities」(東京大学総合研究博物館、2006年/国立台湾芸術大学芸術博物館、台北、2011年/リヨン市ガダーニュ美術館、フランス、2011年)、「QUINAULT」(G/P Gallery、東京、2009年/Michael Hoppen Gallery、ロンドン、2010年/TAI modern、サンタフェ、2010年)、「風景の科学 −芸術と科学の融合−」( 国立科学博物館 、東京、2019年)など。
作品はエルメス・インターナショナル(フランス)、ケンパー現代美術館(アメリカ)、ニューメキシコ美術館(アメリカ)、フランス国立図書館(パリ)、Stichting Art & Theatre(オランダ)に所蔵されている。


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